「バネさん、好きだ」

「あ?なんだよ突然」



ママにはないしょの夏休み
Secret summer vacation in mom
睦月あじさい


 夏休みに入ってはじめて迎えた土曜日。
 黒羽は可愛い(?)後輩の『泊まりにキテレツ大百科…プッ』と言う誘いに踵落としを食らわせた後、何事も無かったように天根ヒカル宅を訪れていた。
 両親は親戚の法事で今朝から出掛けているようで、帰ってくるのは月曜の夜らしい。大概いつも一緒にいる二人だが、一つ屋根の下で全くの二人きりという状況になるのは今日が初めてだった。
 夕飯は天根の母親が作り置きしていったもので適当に済ませ、順番にお風呂に入った後、布団を二組敷くのは面倒くさいという理由でいつものように1つの布団でごろごろとお互い好きなことをして過ごしていた。
 そんないつもと変わらない日常の中での唐突な言葉だった。

「突然じゃない。前から思ってたけど、なんか今言っとこうと思って」

 冷めた性格と言うわけではないのだが、感情がいまひとつ面に出ない天根は、布団の上に寝転がりながら明日の天気でも話しているかのように平然と答える。
 天根がそんな事を言い出すまで、布団の上にあぐらを掻きながら、そこら辺に散らばっている雑誌を何の気なしに読んでいた黒羽は、その言葉を聞いてページを捲っていた手を止め、不思議そうな表情で相手の顔を見つめた。
 そんな様子の黒羽を寝転がりながら見上げていた天根は、むくっと起き上がり、猫科の大型動物を思わせるようなしなやかな動きで黒羽の背後に回り込むと、両腕を広げてふわりと黒羽を包み込むように背中から抱きついてきた。

「…おい、暑いっつーの。離せよダビデ」

「やだ」

 天根は黒羽の言葉に意地になったのか、顎を肩の上に乗せ腕の力を強め、体全体を密着させるように更にぎゅっと抱きついてくる。
 こうなってしまうとテコでも動かないことを幼い頃からの付き合いで知っていた黒羽は、一つため息を付いた後自分の肩の上に置いてある天根の頭をポフポフと叩いた。
 するとそれを合図に天根は黒羽に問いかけてきた。

「バネさんは?」

「はぁ?」

 天根の言葉が何に対しての問いかけなのかわからず、黒羽は間抜けな返事をする。

「バネさんは、俺のこと好き?」

「おう、好きだぞ」 

 耳元でそんな事を言う天根の吐息をくすぐったく感じながら、特に深く考えもせず黒羽は答えた。

「ホント?…じゃあ俺たち両想いだ」

「ん?…まぁ、そういうことになるな……っておい、どこ触ってんだよダビデ。くすぐってぇよ」

 後ろから抱きついていた天根の手は、いつの間にか黒羽の着ているシャツの裾から侵入して腰や腹筋の辺りを撫で回している。

「バネさんの肌、すべすべしてて気持ちいい」

「あぁ、風呂入ったばっかりだからな…ってそうじゃなくて、何でそんなとこ触ってんだよ」

 いつものように黒羽が天根に軽快なツッコミをいれる。それを受けた天根も何食わぬ顔で平然と返してくる。

「両想いだから。バネさんは俺に触られてイヤ?気持ち悪い?」

 そういう返事が返ってくるとは思っていなかった黒羽は、何か引っかかるものを感じながらも少し間をおいて返事をした。

「…気持ち悪かねーけど……俺なんか触って楽しいのか?」

「ん?楽しいけど?好きな人に触れるから」

 天根はそう言いながら動かしている手を止めずに黒羽の耳をペロッと舐めた。

「!ぎゃっ!!ちょっ、どこ舐めてんだよダビデ!!!」

「バネさんの耳。なに?感じちゃった??」

「ばっ!このくそダビデがっ!!ふざけんのも大概にしろっつーの!!!」

 スキンシップ過剰な二人がお互いの体に触れるというのは日常茶飯事で、抱きついたり肩を組んだりは当たり前の出来事だった。しかしさすがにこれはシャレにならないと思った黒羽は、相手に肘鉄を食らわすべく腕を振り上げた。
 その動きを野生の感と黒羽の気配で察知した天根は、ぱっと手を離して後ろに身を引いた。

「ふざける?俺、バネさんのこと好きって言ったし、バネさんも俺のこと好きって言った」

 天根はきょとんとしたまま邪気の無い目でまっすぐに黒羽を見つめながらそう答える。
 肘鉄を上手い具合に避けられた事にむっとしながらも、その言葉を聞いた黒羽は、天根の方に向き直ってあぐらをかき、正面から天根の目をじっと見据えた。自分の目を見つめたまま黙り込んでしまった黒羽を不思議に思った天根は、心持首を傾げながら問いかけた。

「バネさん?」

「ダビデ」

 今までに無く神妙な面持ちをした黒羽に名前を呼ばれた天根は、思わず正座をして相手の言葉を待った。

「お前、冗談じゃなく本気であんなことしたかったのか?」

「うん」

 天根は幼い子供のような仕草でこくりと頷く。

「俺も男でお前も男だ。それはわかってんのか?」

「うん。バネさんよく家で素っ裸になるから、よーく知ってる。腰骨の付け根にホクロあるよね」

《 ごすっ 》

「……バネさん、痛い」

 天根は余計なことを口にしたせいで、黒羽から脳天直撃のキツイ手刀を食らわされた。

「痛いようにしてんだから当たり前だ」

 黒羽は少し眉根を寄せてしかめ面のまま、当然と言った態度で言い切る。叩かれたところを擦りながら、天根は少し口を尖らせて黒羽に抗議した。

「ひどいやバネさん。俺のこと好きって言ったじゃん」

「…それとこれとは話が別だろが。つーか、お前、よく考えたのか?俺にもお前と同じモノが付いてんだぞ?そんな俺に触って気持ちいいのか?」

 世間一般の常識で言う至極まっとうな言葉を黒羽に投げかけられた天根は、何でそんな事を聞いてくるのか解らないといった表情で黒羽を見つめながら答えた。

「?気持ちいいよ?触るの。バネさんとセックスしたらもっと気持ちいいと思う」

 ひどくあけすけな天根の物言いに少々面食らった黒羽は、しばらくポカンと天根を見ていたが、とある事実に気付きそのことについて再度天根に尋ねた。

「ちょっと待て、お前、俺とセックスしてーのか?」

「うん。俺、バネさんに入れたい」
 
 天根は直接話法でずばりと答える。黒羽は頭を傾げながらその言葉の意味を考えた。
『…入れる?それは男女で言う《ハメル》ってことか?……つーか、俺のどこに入れるんだ??』
 天根の言葉はすでに黒羽の理解できる許容範囲を超えてしまっていた。

「は?何言ってんだお前?さっきも言ったが、俺は男だ。お前を受け入れる穴なんてねーぞ?大体、男同士で一体どうやるんだ?」

 男女の営みならともかく、男同士でどうやるのかなど全く知識の無い黒羽の脳内はクエスチョンマークで一杯だ。
 それを聞いた天根はおもむろに黒羽ににじり寄って来たかと思うと、今度は正面から抱きついてきた。

「…おい、ダビデ。ふざけんのもいーかげんにしろよ。抱きついて誤魔化そうとするんじゃねぇ」

「だからふざけてなんか無いって…教えてあげようとしたんじゃん。
…っと、ここ、つかう」

 天根はそう言いながら腰に回していた手を黒羽がパジャマ代わりにしているトランクスに滑らせ、すっと尻の境目に沿って撫で上げた。
 突然思いもよらぬところを触られた黒羽は頭の中が真っ白になり、天根に抱きしめられたまま硬直してしまう。
 相手が抵抗してこないのをいいことに、天根はイヤラシイ手つきで好きなだけ尻を撫で回していたが、そうこうしているうちにようやく我に返ったのか、黒羽は自分の尻の辺りで怪しい動きを繰り広げている天根の腕を掴むと、呆れたような口調で言い返してきた。
 
「ダビデ…そこは出すところであって、入れるところじゃねーぞ」

「違うよバネさん。出せるところだから入るんだって」

「うっ!……そう言われりゃそうか……穴っちゃー穴だしなぁ……」

 天根の言葉を聞いて納得したのか、黒羽は自分が貞操(?)の危機に陥っていることも気付かずにぶつぶつと呟きながら頷いていた。
 そんな様子の黒羽を見て、天根は少し体を離し、俯き加減の黒羽の頬に掠め取るようなキスをする。黒羽は天根の柔らかな髪が鼻先をくすぐったのと同時に頬に温かいものが触れたことに気付き、顔をあげて相手の顔をまじまじと見つめた。

「…なんだ?今のは」

「キスだよ。知らないの?」

 小首を傾げながら天根が答える。今までの実生活で、男女関係無く野山や海などで遊びまわっていた黒羽にとって、キスという行為は恋愛ドラマの中でしかお目にかかったことが無く、しかも幼い頃から知っている天根にされたとなっては、未知の世界ということもあってどう反応してよいのかわからない。

「いや、それくらい知ってるけどよ…何でそんなこと俺にすんだよ」

 黒羽は理解不能な天根の言動に目を白黒させながら、訳がわからないと言った表情で天根に問いかけた。

「好きだから」

 そう言いながら天根はゆっくりと黒羽に顔を寄せると、相手の唇に自分の唇を軽く押し当て、何度かついばむ様な動作を繰り返した後再びゆっくりと離れていった。ようやく天根の言った言葉の意味が真に理解できたのか、黒羽は口を半開きにしたまま相手をポカンと見つめている。そんな様子の黒羽を尻目に、天根はトンと相手の肩を押しやって仰向けに寝転がし、相手をまたぐような形で覆いかぶさってきた。そして黒羽の顔の両脇に肘を付くと、おもむろに顔を寄せてお互いの額同士をこつんと合わせ、祈るように呟いた。

「バネさん、好き。…だから、しよ?」

 そう言いながら天根は合わせていた額を離し、少し顔をずらして黒羽に口付ける。最初は先ほどと同じように唇に触れているだけだったのだが、黒羽の口が少し開いているのをいいことにそこから舌を侵入させ、ゆっくりと歯列をなぞったあと舌をきつく絡め吸い上げてきた。
 はじめのうちは自分の身の上に何が起こっているのか把握できず、近すぎるせいで妙にピンボケした相手の顔を呆然と見上げるだけの黒羽だったが、天根の舌が侵入して自分の口内を好き勝手に貪っていくうちに背中をゾクリとしたものが駆け抜けて行き、その反動で開いたままだった目を思わず閉じてしまう。黒羽はキスという行為自体した事が無く、どうやって息継ぎをすればよいのか解らなかった。素潜りなら軽く三分は息をしないでいられる黒羽だったが、天根に舌を吸われて唾液ごとからめとられるたびに酸素まで奪われているのか、次第に意識も朦朧としてくる。
 そうしてしばらくの間黒羽の口内を好きなように貪っていた天根だったが、相手の反応がおかしいことに気付き、唇を離すと顔色を伺うようにして正面から覗き込んできた。
 
「…バネさん?」

 抵抗することも無く押し倒され、なんだか解らないうちに濃厚なキスまでされ息も絶え絶えになってしまった黒羽は、色んなことが一遍に起こりすぎたのと、脳に酸素が回らなかったせいで、上手い具合に思考が追いついて行かず返事をすることが出来ない。
 ようやく天根の口付けから開放され、はあはあと少し荒い息をしながら黒羽はしばらくの間呆然と相手の顔を見上げていたのだが、こうして正面から天根の顔を見つめているうちに、幼い頃からの付き合いだからこそ解るなんだか余裕の無い表情とか、自分を見下ろす熱を孕んだ瞳などが見て取れて、なんとなくだが相手の気持ちが解ってきた。
 しかし黒羽はどこからどう見ても立派な男だ。男から告白されたことも無ければ、『やりたい』などと言われたことも一度も無い。
 なにを好き好んで自分なんぞにそんな気持ちを抱くのか解らないが、今までの天根の行動から察するに、そういう意味で『好き』と言うことなのだろう。しかしまあ、一時の気の迷いと言うこともあるかもしれないと思い、黒羽は息を整えながら散々貪られて麻痺してしまったような感覚の口を開いた。

「ダビデ……お前、こーいうこともやりたいって意味で俺のこと『好き』って言ったのか?」

「うん。そうだよ。バネさんは違うの?」

 普通、男が小首を傾げて上目遣いで相手に甘えたように問いかけてきても気持ち悪いだけなのだが、普段無表情な天根が少し眉根を寄せて困ったような表情でそれをやると、なんだか可愛く見えてくるものだから始末に終えない。
 実際天根のことは気に入っているし、好きだとも思う。だがそういう恋愛の対象として考えたことなど一度も無いのは折り曲げようも無い事実で。
 今まで自分を取り繕うことなく生きてきた黒羽は、複雑な気持ちになりながらも真っ直ぐに相手の目を見つめ、正直に自分の想いを告げた。

「……確かにお前のことは好きだ。だけど、お前が言ったような意味では考えたこともねーよ」

 天根は黒羽の言葉を聞いて少し考えている風だったが、おもむろに相手の肩を押さえつけると、親にお菓子をねだる子供のような表情で話しかけてきた。

「じゃあ、今考えて」

 黒羽の肩を掴んで真っ直ぐに目を見つめながら天根はそう切り替えしてきた。

「?!今って……お前なぁ…」

 黒羽はすぐに答えを欲しがる天根に驚き半分、呆れ半分で二の句が告げない。

「バネさんはさぁ……」

 天根は押さえ込んでいた片方の腕を黒羽の口元に持っていき、親指ですっと撫で上げた。

「俺とキスして、気持ち悪かった?」

 キスの感想を問われて黒羽はされたときのことを思い出してみる。最初は訳が分からず、天根の舌が入ってきたあたりでなんだか背中がゾクッとして、だんだん息が苦しくなっていったような気がする。
 どう感じたかと聞かれたら『ゾクッとした』としか言えないのだが、もしそれが本当に気持ち悪かったのなら、黒羽の性格上された時点で相手を蹴飛ばすか殴り倒すといった行動をしているはずだ。しかしそれをしていないあたり気持ち悪いと感じなかったのかもしれない。

「俺は気持ちよかった。バネさんが目をぎゅっと瞑ったときなんか、すんげーゾクゾクした。思わず立っちゃったし」

 そう言いながら天根は相変わらず黒羽の唇を撫でたり軽くつまんだりして感触を楽しんでいる。

「バネさんの唇って思ったより柔らかくて気持ちいい。俺キスで立っちゃったの、初めてだよ」

「……あぁ…そりゃどうも…ありがとよ」

 相変わらず頭の中は上手く機能せず混乱気味の黒羽だったが、褒められているのはなんとなくわかったのでそう返事をした。

「俺、今までそんなにキス好きじゃなかったけど、バネさんとするなら別。何度でもしたい」

「………………」

「あ、もちろんその先も、だけど」

 ペロッと天根はそんな事を言う。
 いつもだとよく喋るのは黒羽の方で、どちらかというと天根は無口な方だ。大抵の場合、黒羽が喋って天根が相槌を打ったりくだらないしゃれを言ったりして会話が成り立っているのだが、今は立場が逆転している。

「…ダビデ、お前本気か?」

 一つため息を付いた後、黒羽は真剣な面持ちで相手を真っ直ぐに見据えてそう尋ねる。それに対して天根は少し呆れた表情で返事をした。

「うん。さっきからそう言ってるじゃん。聞いてなかったの?バネさん」

「いや、聞いてたけどよ………突然そんな事言われりゃ、冗談とも思うだろーが」

「うーん、そっか……あ!じゃあ」

 天根は突然身を起こすとおもむろに両手を頭にやり、右手につけていたゴムで髪をまとめ、再び黒羽に覆いかぶさってきた。黒羽は相手が何をしたいのかわからず、とりあえず黙って様子を見守っている。

「バネさん、好き。だから、しよう」

 髪を無造作に纏め上げた天根は、真剣な表情で相手を見つめながら再びそう告げる。黒羽は天根のとった行動の意味がやはり解らず、呆気にとられたままだ。

「……なんだそりゃ??どー言う意味だよ」

「俺の気持ち。テニスしてる時と一緒」

 天根はテニスをしている時、稀にだが髪を結ぶ習慣がある。それは本気になった時にしかやらない行為で。髪を結んだのは、どうやら本気でそう思っているのだと黒羽に示したかったかららしい。天根がそこまでして自分が如何に本気であるかということを言葉と行動で伝えたかったのかと思うと、自分のことを思ってくれている天根には悪いが、黒羽はなんだか笑えてきて仕方なかった。

「ぶっ!……くくっ……ダビデ……お前……」

「なんだよ、バネさん。俺真剣なのに………笑うなんてひどい」

 黒羽が笑い始めたのを見て馬鹿にされたと思ったのか、天根は口を尖らせながら抗議をする。未だ収まらぬ笑いを噛み殺しながら、黒羽は天根に話しかけた。

「……いやー、わりぃ。つぼにはまっちまったわ。……まぁ、そうすねんなって。馬鹿になんかしてねーよ」

 黒羽はそう言って天根の頭をポフポフと叩くと、表情を引き締め改めて相手の目を見つめながらさきほどの天根の言葉に答えるべく話を続けた。

「一応考えたんだけどな」

「うん」

「はっきり言って、俺にはよくわからん。だからお前の好きにしろ」

 黒羽はきっぱりとそう言い切った。

「バネさんはそれでいいの?」

「あぁ。これ以上考えても答えは出そうにねーし。お前が俺のこと好きで、やりたいんだったら別にいい。そのかわり、途中で気持ち悪くなっても俺は知らねーからな」

 黒羽がそう言い終わった途端、天根は素早く相手の足の間に体を割り込ませ、覆いかぶさるように抱きついてきた。

「ちょ、どうしたよダビデ。もう気持ち悪くなったのか?」

「ううん。バネさんわかんない?」

 天根はそう言いながら少し体をずらして黒羽に下半身を密着させる。するとちょうど黒羽の尻の辺りに、布越しでも解るくらいに興奮して硬く張り詰めている天根のものが押し付けられていた。

「…………」

「ね?わかった?気持ち悪くなんかならないよ。さっきから痛いくらいだし」

 まさか天根がそんな状態になっていると思っていなかった黒羽は、驚きのあまり声も出ない。

「バネさん」

「………っあ、なんだ?」

 少しの間放心状態だった黒羽は、天根の呼びかけでようやく我に返り、焦点の合っていなかった目を相手に合わせた。そうしてお互いの目線が絡み合うのを確認した天根は、黒羽の額に軽く唇を落とすと、両頬、鼻先と順に口付けていく。最後に唇に近づいて上唇、下唇を軽く食んだ後おもむろに舌を差し入れて口内に侵入し、相手の舌を絡めとって軽く吸い上げてから唇を離した。
 天根の本気をまざまざと目の当たりにしたうえ、身を持って体験させられた黒羽は、なんだか恥ずかしくなって思わず赤面してしまう。天根はそんな様子の黒羽の耳元に唇を近づけ、少しかすれ気味な声で囁いた。

「一緒に気持ちよくなろ」
 
 その声を聞いた黒羽はなんだか体の力が抜けてしまい、先ほどと同じく口内を貪られたせいで口が上手く回らなかったのだが、何か言い返せずにはいられなくなり無理やり口を開いた。

「………おまえ…はずかしいやつ……」

「別に、恥ずかしくなんてないけど……あ、わかった。バネさんが恥ずかしいんだ」

 《  バチン  》

 天根は余計な一言を言ったがために、黒羽から強烈な両手ビンタをお見舞いされた。一方黒羽は、自分の気持ちを言い当てられて少々不機嫌だったのだが、不意打ちのビンタを天根がおとなしく食らってくれたことで機嫌がよくなったのだろう。満足そうな表情で自分の手形の付いた天根の頬を見上げている。天根は打たれて赤くなった頬を擦りながら黒羽に抗議した。

「……暴力反対」

「……ダビデ。無駄口ばっか叩いてんじゃねぇ…続きしねーなら俺は寝るぞ」

 天根の抗議をものともせず、黒羽はまるで最後通告のように言い渡す。

「する。だから寝ないでバネさん」

 その言葉を聞いて少し慌てた天根は、黒羽が不貞腐れて寝てしまわないうちに事を進めようと、首筋に唇を落とし、自分の手をTシャツの裾からするりと潜り込ませていった。


 こうして二人の新しい関係が始まる。


●おわり



○ 一応キリリク(?)のダビバネです。エロいれるとなんだか長くなりそうだったので、とりあえずここまで。そして『夏、海』と言うお題だったのですが、海が無い!!!あいたたた……すみませんm(_ _;)m本当にヘタレで申し訳ないです。でもダビバネ書けて楽しかったので、またなんかネタ浮かんだらやりたいですね。懲りずに続きとか…エロだけだ(倒)/睦月あじさい
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